むし歯の歴史
敵に打ち克つには、敵をよく知ること、というわけではありませんが、今回は、我々の歯の最大の敵のひとつ、「むし歯」の歴史をひもときます。
人類の歴史は500万年ともいわれますが、その時代の化石などから、むし歯のあとが発見されることは、ほとんどありません。
その後数百万年続く、
狩猟と採取が中心の生活のなかでも、むし歯はほとんどありませんでした。
むし歯が見られるようになったのは、人類が
農耕生活を始めるようになった、約1万年くらい前からです。米や麦、芋などの炭水化物を作り、さらに加熱加工することで、よりむし歯になりやすい状態(軟質のでんぷん)にして食べるようになり、虫歯は増えていきました。
日本においても、縄文時代の終わりから弥生時代の人骨には、それ以前のものより多くのむし歯が発見されており、稲作の始まりと関連があると推測されます。
さらに時を経て、約400年前に砂糖が食品として登場し、18世紀に産業革命が起こって、
砂糖が大量生産・大量流通するようになって、むし歯は広く一般的な疾患となります。
このようにむし歯は文明の発達とともに増えてきました。むし歯の原因については、
19世紀に、細菌が生成する酸が歯を溶かすことでむし歯になる、ということがわかるまで、西洋や中国、日本も含めて、多くの地域で、むし歯の原因は、まさに
「虫」が歯を食べてしまうため、と考えられていました。したがって、その治療法は、加持祈祷や煙で燻して虫を追い出すといった方法が中心でした。
原因については間違っていましたが、
予防として歯の清掃が重要であることは古くからわかっていたようで、
爪楊枝は紀元前から、歯ブラシも中世には使われていたことがわかっています。 日本では、中国から仏教の伝来とともに歯磨きの習慣も伝わったと言われています。 江戸時代には
房楊枝 (かわ柳などの小枝の先端を煮て、かなづちで叩き、針で作った櫛ですいて、繊維を柔らかい房状にしたもの) という歯ブラシ代わりのものが広く売られていて、庶民の間でも使われていました。
時代とともに歯科学も発達してきましたが、
歯磨きによる予防が大事であることは、今も昔も変わりはありません。