おいしいを考える3


食感:今までに取り上げた味覚や匂いは、食べ物と舌の接触、食べ物の匂いと鼻の奥のセンサーの接触による反応で生じる化学的な味わいだと言えます。  一方で、食べ物を口にしたときに感じる歯ごたえや噛みごこち、歯切れ・舌触り、喉ごしなどといった食感は、物理的な味わいと言え、化学的な味とともにおいしさを大きく左右します。
 ご飯では適度な硬さと弾力・粘りの加減がおいしさの決め手であり、刺身であればトロなどのねっとり感、白身魚の刺身のシコシコ感、天ぷらではカラッとしてサクサクの衣の揚がり具合、といったものに私たちはおいしさを感じているのです。

 食べ物の食感は、硬さや弾力性といった部分は歯の根元と骨を結びつけている歯根膜で感じ、表面の滑らかさやみずみずしさは舌や口の粘膜で感じ取っています。虫歯や歯周病で歯根膜を失ったり、ドライマウスや口腔内の炎症などで口腔内の粘膜が正常でない状態になると、おいしさの感覚にも影響することになります。
 食感の好みも、軟らかく炊いたご飯が好きな人もいれば、硬めに炊いたしゃっきりしたお米が好きという人もいるように、個人差が大きく、環境や経験によって変わってくるものと言えます。

 食感にしても、これまで見てきた味覚や匂いにしても、環境や経験といったものがおいしさを判断する大きな要素であるので、そこをもう少し考えてみます。まず連想できるのは、食文化の違い、家庭ごとの食習慣・味の違いなどから生じるものでしょう。「日本人は米食中心、西洋はパン食」とか「おふくろの味」などに代表される「おいしい経験」からくる感覚です。
 そして、もうひとつあるのが、知識からくる感覚です。食通の○○さんが薦めるレストラン、テレビで評判のお店、高い値段のワイン、肉や魚、果物でも野菜、いまや何にでもあるブランドもの・・・本当においしいと感じるものもあれば、なんだか苦かったり、クセがあったりするものもあるのでしょうが、それを「大人の味」「通の味」として感じることにおいしさを見出すような部分もあります。ヒトはわざわざ苦難に耐えておいしさを味わおうとするところがあるようにさえ思えます。

おいしいについて、ここまでいろいろと考えてきましたが、よりたくさんのおいしいに出会うコツは、まずは選り好みせず、いろいろな味を経験を通して感覚を磨く、ということになりそうです。そして、歯や口は健康な状態を保つこと、もうひとつ、食の知識もおいしさのうち、と心得ましょう。